有機農業特集

草が減って収穫増える、有機の田んぼに朗報 及川正喜さん インタビュー

EMでコナギを減らそう!

「農薬を使わないお米を食べたい」という消費者は多いと思われますが、それを稲作農家に伝えるとほぼ全員が、「でもね、草取りが大変だ。手伝いにきてくれるか」と応えます。有機農家であっても、高齢化がすすみ、草取りの労働に耐えられるかが、有機の米づくりを継続できるか、また、若手にバトンを渡せるかの大きな問題です。ことに自然農法の稲作農家の努力によって除草技術の体系化がすすんではきましたが、1回撒けば、多大な効果のある除草用農薬の威力には及ばないのが現実です。ただし、この農薬に対して耐性をもった草が繁茂し、さらに強力な農薬を散布するという悪循環は続いています。今年は、国際土壌年ですが、こうした過度な除草剤散布による土壌への影響は少なくないと思われます。

特にコナギは農薬を使わない有機水稲栽培の大敵です。コナギは種子で繁殖する一年生雑草で、地中が酸素欠乏状態であっても発芽が可能です。したがって、水田の土壌では旺盛に発芽し、畑土壌では、めったに発芽しません。一株当たり1,000~3,000粒に及ぶと言われ、除草剤を使わない稲作では、初夏に青紫の可憐な花をつけたコナギが水田一面覆うことも珍しくありません。また、窒素吸収量も旺盛でコナギが密生した場所の稲が生育不良となって収穫量に大きな影響を与えます。

水田に生えるコナギ

農薬を使わないコナギの抑草と除草については、いくつかの技術があります。コナギの発芽深度は土壌表面から1.5cmと浅く、また発芽直後では根をはる力が弱いので、発芽直後に浅く代かきを行い、コナギを土の中に埋め込む。水田表面に形成される軟弱なトロトロ層と、イトミミズの活動、深水による浮力効果により、コナギを減少させるための長期灌水。田の水深を大きくすることで発芽種子を浮きたたせて活着させない深水管理。コメヌカの分解課程で生じる有機酸によりコナギの芽を腐食させる米ヌカ除草などです。

いずれの方法も、コナギ除草の決定打にはなっていないのが現実ですが、EM研究所ではこの伝統的な技術にEMを組み合わせた抑草・除草の方法を全国18カ所の農家に協力を得て実験し、その結果がまとまりました。
提案は、以下の通り。

春の耕種管理の概要

  1. 入水時にEM活性液を20L/10aを流し込み(コナギ発芽に刺激)
  2. 荒代かき
    ドライブハローで代かき(深くまで耕起しない)
  3. 入水期間は浅水管理(土が全体に隠れる程度)
  4. 入水7~10日後にEM活性液20L/10aの追加流し込み
  5. 植え代かきに20日間以上の日数をとる。
  6. 植え代かき
    ドライブハローによる表層の代かきで発芽した雑草を埋没・浮かせて除去
  7. 田植え後のボカシの散布
    EM1:糖蜜:水=1:1:8で混合し加温して培養した発酵液。

この結果、気候、土壌、品種などの条件がちがっても、おおかた除草効果ありとの確認を得ました。多収穫、高品質の米への期待だけではなく、使い方次第では除草効果もあるということであるならば、有機農家だけではなく慣行農家から有機農家への転身を考える農家に朗報といえるものです。

EMで除草にチャレンジ

この方法を実践した一人が、宮城県の登米市の有機農家、及川正喜さんです。及川さんは、1997年から自給農を始め、5年後の2004年に新規就農。EMを知ったことから自然と共にある農業を目指して、こだわりのある米づくりを行っています。現在は水田739aと畑50aを、農薬や化学肥料を使わずEM自然農法で栽培し、お米は自然乾燥した天日米として販売。「有機JAS」と「みやぎの環境にやさしい農産物認証制度」を取得しています。

及川さんは、コナギの除草について「4圃場は無除草、残り7圃場は揺動除草で、従来4回を2回に減らすことができた。無除草と除草した圃場の違いは、灌水の期間の違い。田植えまえの湛水期間を31日間長くとったことろは、植え代かきまでに充分にコナギを発芽させることが出来たので、その後の発芽を完全に抑えることができた」。

収穫量も増やしたことについて、「初期成育のよさと長期灌水で抑草に成功したことが大きい。昨年との収穫の違いは、EM活性液の使用量。特に葉面散布を多くしたこと。出穂中に台風がきて、穂が茶色に変色したが、EM、光合成細菌をいつもよりも濃く散布した。くず米がいつもよりも多いと予想したが、逆に少なかった」と、EM活性液の前半の流し込みと後半の葉面散布が、収量の確保に大いに効果をあげたのではないかと話しました。

田植え前の長期灌水について

植え代かきをすることによって、下に溜まっているガスが空気中に放散され、田植え後のイネの活着が早く、初期成育もよく、根に障害が出なかった効果があった。今までは、慣行と比べて、初期生育が遅かった。

灌水期間中の作業について

この地域において水がくるのは4月27日あたり、今までだとこの時期は耕起作業中。
今年の実験圃場11圃場については水が来たらすぐ田に入れ、できるところは荒代かきをした。
例年ならば5月中旬にする作業を例年より早めて4月の末にした。

秋耕起、春耕起について

刈り取った米を天日干しするため、11月後半遅くとも12月初めに1回目の耕起を開始する。 耕起は浅く、7-8cm。
稲株が漉き込み緩和されていなければもう1回耕起し、稲株の分解促進させる。
春耕起は、2回。
26馬力のトラクターで7haをさーっと行う。

除草対策について

秋に10a当たりの120kgの米ぬかを施用したことで、トロ土層が厚く形成され、田植え後もコナギの発生が無かったものと考えられる。
コナギだけではなく、ヒエが激減した。
通常管理の短期湛水の水田(9日間の湛水)では、除草機にて除草したにもかかわらず、コナギが大発生した。
土質の違いで雑草の生える具合は変り、砂系 水もち悪い土質は草が生えやすい。

← 通常管理の短期湛水の水田 → EMで除草対策をした水田
収量アップのポイント

色選前で10a当たり10俵の収穫があった。
昨年は約8俵、一昨年は5俵半。
出穂前にEM活性液、光合成細菌、EM7を散布。
収穫ま秋落ちもなくいい葉色をキープできた。
それで登熟率が高まり、くず米の量も少なかったのではないかと考えている。

栽培履歴 品種:ササニシキ
年月日 作業内容 使用資材 使用機械・器具名
種苗・資材名 数 量/10a
H25/12/7 秋施肥 米糠施用 米糠 120kg ブロードキャスト
H25/12/10 耕起 浅め ロータリー
H26/4/26 耕起 中耕 ロータリー
H26/4/27 入水
H26/4/27 EM活性液散布 10%EM活性液 20L
H26/5/8 荒代かき
EM活性液散布
10%EM活性液 20L ドライブハロー
H26/5/28 植代かき ドライブハロー
H26/5/31 田植え
有機肥料、田面施用 バイオノ有機 30kg
H26/6/5 EM活性液流し込み EM活性液 10L
H26/6/23 EMの葉面散布 EM活性液
光合成細菌
0.8L
0.25L
動力噴霧器
H26/7/29 EMの葉面散布 EM活性液
光合成細菌
EM7
0.38L
0.23L
0.01L

動力噴霧器
H26/8/14 EMの葉面散布 EM活性液
光合成細菌
EM7
0.6L
0.3L
0.01L

動力噴霧器
H26/9/11 EMの葉面散布 EM活性液
光合成細菌
0.24L
0.1L
動力噴霧器
無除草
湛水期間(入水から植代かきまでの日数)

31日(H26/4/27~H26/5/28)

栽培面積(平成26年の栽培面積) 水田739a
収量

前年の収量の29.6%増収
平成25年 451.1kg/反
平成26年 584.6kg/反

使用資材(平成26年栽培分)
  • EM活性液(有用微生物群EM1の培養液)
  • 光合成細菌(EM3の培養液)
  • EMボカシ(米糠、バイオノ有機、オカラ EM活性液、籾殻)
  • バイオノ有機(魚と米糠の有機肥料)
  • 籾殻
  • 米糠
  • パームアッシュ
  • 天然塩
  • 木酢液
  • にんにく
  • ストチュウ
  • 育苗ボカシ
  • 魚ソリュブル

このプロジェクトを担当したEM研究所の職員は、「ロータリーなど今ある機械で対応できること、労働時間が減らせること、コスト削減など、EMの波及効果は高く、プロの稲作農家だけではなく、自給農のみなさんにも関心をもっていただきたい」と話しています。

★及川さんのHP
http://farmin.jp/

★技術的な質問はEM研究所へお問い合わせください。
054-277-0221(webエコピュアを見たとお伝えください。)

(文責:小野田)