有機農業特集

吉田さんに聞いてみた!
菌ちゃん野菜づくりを通して伝えたい思い

「菌ちゃん先生やろ、知ってる」。
SNSのおかげか、小さな村の見知らぬおじいさんからも声をかけられるようになった吉田俊道さん。オンライン通信講座の登録者は1万人をゆうに超える人気ぶりです。生ごみリサイクルから菌ちゃん野菜づくり、そして菌ちゃんふりかけの販売まで、有機農家をはじめてから27年間。長崎県佐世保市の菌ちゃんふぁーむで今みんなに伝えたい思いを伺いました。


菌ちゃん先生と親しまれている吉田俊道さん
菌ちゃん先生と親しまれている吉田俊道さん

菌ちゃん野菜づくりを始めたきっかけは?

県の職員で農業を教えている頃、有機農業がひろまりつつあったんですね。たまたま比嘉照夫教授の講演会に参加して、EMの話を聞いてびっくりして、いやそんなことがあるのかと、当時あった京都試験場で1週間ぐらいの研修を受けたのですよ。それからEMのことを勉強して、「こんなふうにしたらいいよ」と有機農業に興味のある人に伝えたわけ。でもなかなか上手くいかない。そんな時農家から「そんないうなら自分でやればよかばい」と言われて、「そうだな、生活がかかっている農家がすぐ変われるわけない。自分でやるしかないな」と思ったのが農家になった大きなきっかけです。今考えるとEMを使ってすぐに結果がでるわけではないし、条件を整えないとできない話ですよね。
その後、全国的に有名だった赤峰勝人さんに出会いました。虫や菌を神虫さんと呼んでいた赤峰さんに「虫や菌は敵ではない」と教えてもらい、そんな世界があるのかと目から鱗でした。比嘉教授と赤峰さんとの出会いで菌ちゃん農法と呼ばれるものが生まれたとも言えますね。

標高350m、元は耕作放棄地だが、今は光があふれる菌ちゃんふぁーむ
標高350m、元は耕作放棄地だが、今は光があふれる菌ちゃんふぁーむ

菌ちゃん農法とはなに?

私は菌ちゃん農法という言葉を使ったことはありませんが、いつの間にかこう名づけられていました。簡単に言えば、畑を微生物でいっぱいにして微生物のパワーで育てる方法。そして今まで敵だと思っていた雑草や虫や菌を味方につける農法でしょうか?雑草は天然のソーラーパネルとして光合成で作った炭水化物の何割かを土の微生物に与えている。虫は弱った野菜を食べてくれてその糞を土に落とす。菌は落ち葉などの有機物を分解して、植物が吸える形の養分を作る。こうして何ひとつ無駄なく生命の構成要素が土に戻されていくのです。
特に糸状菌と窒素固定細菌は共同作業で空中から野菜作りの三大栄養素のひとつである窒素を集めて野菜の根に渡してくれる。しかも落ち葉、木、竹やモミガラなどの有機物のほとんどが実は炭素。これらが土の中で微生物を育て、その数を増やしていくのですから、同時に地球温暖化も防げるってわけです。菌ちゃん、ありがとう!ですよね。

月1回の研修セミナー。吉田さん畑ライブ
月1回の研修セミナー。吉田さん畑ライブ

とにかく、土の中の有用微生物を増やすことが菌ちゃん野菜づくりの肝心かなめです。生ごみをEMボカシでpH3.6以下の漬物状態にして土に還すと、生ごみは腐敗せずに発酵分解されますから、栄養が野菜の根に吸収されやすくなり、元気な野菜が育ちます。土を発酵状態にした後に微量ミネラルとしてカキ殻などを与えると野菜はさらに美味しくなります。そんな野菜は抗酸化成分などの栄養素を多く含むため腐れにくく、人のような消化システムを持たない虫たちにとっては食べにくくなるわけです。
生ごみがない場合は分解し始めた薪、枝、落葉、竹、硬い草などの自然物だけで、無肥料で野菜が育ちます。モミガラや綿100%の衣類などでもOK。具体的な技術は「菌ちゃん野菜作り&菌ちゃん人間つくり」(660円、菌ちゃんふぁーむネットショップで購入可能)という冊子を見て欲しいのですが、この方法はキノコの仲間の糸状菌に特にしっかり働いてもらうので排水が重要になります。さらにこのウネを仕込むときにEM整流炭などを加えたらますます菌ちゃんが活性化するはずで、とても楽しみなんです。
あなたの庭でもどこでも始められて、しかも土に戻すのは近くにある自然の材料。外国から化学肥料が入ってこなくても有機肥料がなくても大丈夫ってところがすごくないですか?
また、私たちが実践している畑についてとても関心を持つ専門家が増えていて心強いです。学問的裏づけがあれば、社会へ浸透しやすくなりますから。

EM炭などを使い研究を重ねる吉田さん
EM炭などを使い研究を重ねる吉田さん

菌ちゃんふりかけはどんなもの?

菌ちゃんたっぷりの畑で育った、発酵力の強いキクイモや、晴天日の朝取りで抗酸化成分を最大限含んだエンサイなどの野菜を乾燥し、粉砕したものが菌ちゃんふりかけ菌ちゃんげんきっこです。無農薬なのに虫害がほとんどない野菜は抗酸化力が高く、微量ミネラルも多い。こんな野菜を食べたら腸内細菌が活性化し微量栄養素が十分吸収できるので、心や体の不調を整えるに違いありません。どうしたら困っている人たちにこんな野菜を十分食べてもらえるかと考えた時、そうだ、乾燥してふりかけにしようと思いつきました。これならいろんな料理にかけるだけで、ファイトケミカルやミネラルを体に取り入れることが出来ます。味噌汁や、スープや麺などに混ぜたり、ご飯にかけたりして手軽に摂ることができます。すると、食べたらこうなったという様々なびっくりするような報告がどんどん寄せられ、今では全国各地からの注文で、フル生産している状態です。
これからもますます需要は増えるでしょうから、うちだけの生産では間に合わなくなるでしょう。なので全国各地で有用微生物たっぷりの畑で無農薬野菜を育て、げんきっこを作って欲しいのです。すでにいくつかの地域で生産が始まっています。

菌ちゃんふりかけの材料になる野菜を選別するスタッフ
菌ちゃんふりかけの材料になる野菜を選別するスタッフ

菌ちゃん野菜づくりを通してみんなに伝えたいことは?

食糧危機への不安感を持っている人もだいぶ増えてきました。菌ちゃん野菜作りを体験して成功すると、いざとなったときも、身近にある自然物だけで食べ物が育てられるのですから、すごくほっとします。何もできず不安の中で生きるのではなく、「だからこうしよう」という積極的な気持ちに変わります。
菌ちゃん野菜作り体験は、自然への感覚を正常に戻し、不安感をワクワク感に変えていく最高の体験活動なんだと、多くの方々を見ていて最近つくづく感じています。
野菜作りの敵だと思っていたものがじつは敵ではなかったんです!みんな一生懸命生きていて自然の中の大切な役割を担っていたんです!
美味しい野菜ほど虫は食べない。モグラさんは厄介もののように言われていますが、腐敗した土壌にいるフトミミズを食べに「来てくれる」んです。土の腐敗がなくなってくけば、モグラさんはいなくなります。雑草をタネごとたっぷり入れると土が変わり、背の低い抜き取りやすい種類の雑草に変わってくれる・・・。「この世の中で不要なものはなにもないんだ」ということが実感できて、「自分は地球に生かされている」という安心の境地を得るには菌ちゃん野菜作り体験が一番だと思います。菌ちゃん野菜作りの楽しさがみんなに伝わって実践者が増えれば世界はより良く変わると思いませんか。自然観や価値観を大きく変える感動をもっと多くの人に体感して欲しいと願っています。

種まき完了で満足の研修生とスタッフのみなさん
種まき完了で満足の研修生とスタッフのみなさん

インタビューの日は、月1回の研修セミナーで研修生50人ほどが、人参の間引きや、コマツナ、ミズナ、ダイコンなどの種まきを農園のスタッフと一緒に体験していました。「自分の畑ではなかなか上手くいかないので直接教えてもらおう」と福岡から参加したAさんは、細かい指導と吉田さんのパワーを直に感じて野菜づくりへの意欲がまた沸いてきたそうです。
3ヘクタールの菌ちゃんファームは標高330メートルにあり、耕作放棄地と古家を借り受けて、ここまで美しい畑にすることができたのは、人間と菌ちゃんの共同作業だと感動しました。セミナー会場ではなく、畑をステージとして話す有機農家の吉田さんも新鮮でした。吉田さんの願いである「菌ちゃんふぁーむ」を自分の庭でも保育園でも学校でも実現して地球と人間の健康を取り戻していきたいものです。次回は、青森県で主婦が耕す畑や認定こども園、農林高校での菌ちゃん実習セミナーの模様をお届けします。(小野田)