動植物のすべてが死んだら土に還る。明治以降、ヒトは火葬することとなり、小さな骨壺の中でいずれ二酸化炭素と水に分解され、最終的には大気に合流するという具合だ。土に還るのは、野生動物と植物ということになる。
というわけで、生き物の死骸が土に還り、そこから新しい生命が誕生するという感覚は現代では遠のいてしまった。本書に紹介されている、餓死したアフリカゾウがどのように分解され、周辺の環境にどのように影響を与えるかを4年間調査したイギリス・オックスフォード大学のコーエ博士による報告も興味深い。
野生動物の遺体が分解されるパターンは、様々な大きさの哺乳類で共通している。遺体を利用する生物が次々と入れ替わることを「遷移(せんい)」と呼ぶ。一般的には「植生の遷移」として知られているが、動物にもそれは起きており、哺乳類の遺体の分解に関わる生き物は腐肉動物(清掃動物)と微生物に分かれる。遺体の周辺の土壌にも変化が起こることが確認されており、その一例として、遺体のまわりに苔が生えるということは興味深い。
一方、植物は木そのものが朽ちて死ぬこともあるが、分解されるものの代表は落葉樹の落ち葉だ。ブナの落ち葉を腐らせる菌類は25種のキノコと104種のカビが関わっているという。落ち葉は、土壌微生物と土壌動物によって分解され、森に暮らす様々ないのちを支える根源となっていく。 著者は生物多様科学の専門家であるが農学博士でもあり、生物多様性科学から考える持続可能な農業へのアプローチも期待したい。