前回までの連載で、野菜・海・タネ・菌といった「いのちの成分」を食べる話をしました。これに並行して重要なことがあります。それは、せっかく食べた「いのちの成分」を、確実に身体に吸収させることです。そのためには、おなかを最高の発酵状態にすることが大事だったのです。
これに気づいたのは、自分の畑の観察からでした。同じピーマンを同時につくっていても畑によって、一方はカメムシが黒々と群がり、一方はカメムシがほとんど見つからない!!ニンジンも一方の畑はアゲハチョウに葉を無残にほとんど食べられているのに、その横でまったくといっていいほど食べられていない畑があるんです!!この違いは、畑の腐敗~発酵の状態が関係していたのです。
腐敗と発酵
多くの植物は光合成でつくられた炭水化物を葉から根に運び、根の周りに集まってきた微生物(根圏微生物)に与え、養います。そうやって植物は微生物と共生することで、微生物から必要な栄養(いのちの成分)を吸収しているのでしょう。糸状菌の体の一部が野菜の根に入り込んで共生し、野菜の根となって外部から必要な成分を運んでくることもわかってきました。
ということは、不十分な排水と長雨などで土中の微生物が大量に死んだり、有機物が微妙に腐敗分解を始めると野菜の根は発酵微生物とつながることができなくなり、生命力が弱まっていくということです。そんな場合は、野菜の根の色が変わったり、ひどい場合は新根が出なくなります。これでは必要な「いのちの成分」の吸収はできません。そんな野菜を虫たちは好んで食べに来るのです。
白菜のベト病が直線方向に長くどんどん広がるのに、横には広がらないという体験もしました。よく考えたら、ベト病が広がった場所は、雨のあと土がまだしっかり乾いていない時にトラクターで耕うんしたところだったのです。強制的に回転するトラクターの爪が土を練ってしまい、土中の団粒構造が壊れ、その結果大地が深呼吸できなくなり、当然土の中が腐敗環境になったのでしょう。そこに根を張る白菜だけが選択的に病原菌にやられたわけです。
発酵はいのちのリユース!?
ここで、発酵と腐敗の違いについて考えてみます。有機物が分解するとき、つまり死んだいのちが新しいいのちに取り込まれるとき、さまざまな条件によって腐敗分解したり発酵分解したりします。これから述べることは私の仮説ですが、腐敗分解は、死んだいのちがスムーズに新しいいのちの材料に取り込めずに、無機物にまで分解してしまう過程で有害物質が発生する状態。それに対して、発酵分解は死んだいのちが無機物まで分解されないまま維持され、低分子の有機物のまま次第に次のいのちの材料として取り込まれる状態ではないでしょうか。言い換えると発酵はいのちのリユース、腐敗はいのちのリサイクルと言えるかも知れません。
生物はみなタンパク質を基本構造に持つので、本来腐敗しやすい。だから良い土であっても一時的、局所的に腐敗は常に微妙に発生しやすいわけです。たまたまそこに根を張り、育つ野菜があれば腐敗の程度に応じて病害虫が発生するようなのです。
上のイラストは、植物と人間の栄養吸収について説明しています。人間の栄養吸収も野菜とほとんど同じ仕組みに見えます。小腸にはヒダがあって、ヒダからたくさんの絨毛(じゅうもう)が飛び出ていて、その先にはさらに極小さな突起=微絨毛(びじゅうもう)が出ています。まだ科学的には十分わかっていないようですが、おそらく人の栄養吸収も植物と同じように微生物が介在しているはずです。だとすれば、人も腸内の腐敗~発酵の程度に応じて、「いのちの成分」の吸収率は大きく変わってくるはずです。
菌ちゃんいっぱいのおなか畑に
ちょっと説明が難しくなりましたが、要するにお尻から排出されるものが、クソではなく、限りなくお味噌のニオイに近づくほど人間は発酵菌ちゃんパワーをいっぱいもらって、最高の健康状態になれるというわけです。
では、おなかをできるだけ発酵させるにはどうすればいいのでしょうか?その方法は、生ごみを畑に入れたときにうまく畑を発酵させるための方法とぴったり対応していたのです。
前回(第5回)の菌ちゃんを食べようという話は、この表の説明②に当たります。今回は④について説明します。 土に混ぜた生ごみは、途中でよく混ぜて空気を送り込むことで腐敗を抑えます。でも、人のおなかは食事の途中で切り裂いて中味を混ぜるわけにはいきませんね。そのかわり、食後におへそを中心にして、手で「の」の字回りにおなかをさすると、おなかの中の腸が「グルグル」っと音を立てて動きますよ。
これが腸のぜん動運動で、腐敗を抑え、食べたものをうまく発酵させる効果があります。もしぜん動運動が起きない場合も、しっかり手でさすることで腸が動かされ、それだけ醗酵を促します。食後でもいいですが、寝る前のほうが続けやすいかも知れません。
安らぎのスキンシップ
自分で自分のおなかを回すのもいいし、家族間で回すのもいいですね。これは最高のスキンシップの時間にもなります。スキンシップは、信頼感と安らぎに包まれて成長ホルモンが分泌され、情緒豊かなやさしい子どもが育つといわれています。人は、ともすれば相手の悪い点ばかりがよく目立ってしまい、欠点を伝えたり注意することが増え、ほめたり認めたりすることが少なくなりがちです。これが積み重なって自分に自信を持てない子が育ち、いろんなトラブルの原因になっています。そこで、おなかを回しながら、安らぎのスキンシップの時間に当てて、同時にその人について、良かったこと、うれしかったことなどを思い出して言葉で伝えてください。すばらしいこころの栄養になるはずです。おなか回しの時間は、発酵促進とスキンシップ、こころの栄養という3つの効果を同時にもたらすでしょう。
ある保育園でこの話をしたところ、さっそく実行されたお母さんがおられ、「私が子どものおなかを回してあげると、次に子どもが私のおなかを回してくれて、私のいいところを話してくれて、家族がとっても幸せになりました」と報告してくれました。そして、聞いていたみんなが幸せな気持ちに包まれました。