秋になって生ごみを土に入れて2週間を過ぎると、ほとんどの生ごみは分解され、原形はありません。それでも、しぶとく生き残り、新しく芽吹いている部分を見つけることができます。ダイコンやニンジンの首の部分、キャベツやタマネギやネギの芯などは、第3話で紹介した野菜の“生長点”になります。
「見て見て!生長点から赤ちゃんが産まれているよ」
「ほんとだ!こんなに元気だ!」
「ここにもあったよ!」
特に深ネギの場合、土に戻して1か月以上たった頃、シートをめくってみると、つぼみができている時があります。
「君、まだあきらめずに花を咲かせて、子供を作ろうとしていたんだね」
ひたすら生きて、目的を遂げようとする姿には感動さえ覚えます。この姿を見るとごみとして捨てることなど考えられない。「絶対に俺が食べたい!」って心から思います。
菌は弱いものが好き。弱った命は食べて土に帰してあげる。だけど、強くて元気なものは菌は食べないんだよ。強くて元気な部分は、ぼくたち人間が食べて元気をもらうんだよ。
生ごみからカボチャの芽が出た
生ごみを入れて4週間後。そろそろ種まきができるかなと思っていると、なにやら青々としたものが勝手に繁茂していることがあります。生ごみの中にカボチャやキュウリ、スイカ、トマトのタネ(生長点)が入っていて、それが発芽したのです。
菌ちゃんも食べられなかった元気なタネが自分の力で生まれて育っているのです。植えた覚えはないので不思議がっている子どもたちに、「これは大きくなったらカボチャになるんだよ。誰か、カボチャの真ん中のところを生ごみで出さなかった?あそこにカボチャのタネが入っていたんだよ」と尋ねると、「これ僕のだよ!僕が家から持ってきたんだよ」と言ってくれます。
しかしながら、この時期が秋だったら、これから育てても収穫まで持ちこたえられません。ですから、「この赤ちゃんを今から育てても、実ができる前に寒くなって死んじゃうんだ。だから土に帰して、菌ちゃんに食べてもらって、今から元気に育つホウレンソウやダイコンの体になってもらおう!」と言って、抜き取って土の上に置いてください。
春か初夏だったら、元気な苗のいくつかを広いところに移して育てることにします。子どもたちには、「全部を育てようとすると、すごくきゅうくつで苦しくなって、実ができなくなるんだよ」と説明します。
子どもたちは畑の空いているところに、小さな苗を大切に移してくれました。まるで、捨てられていた子猫を拾ってきて、暖かい寝床にそっと寝かせてあげるときのような気持ちなのだと思います。
そんな様子を見るたびに、幼児期の子どもって、天使様の心を持っているんだなあととても嬉しくなります。このまま、優しい心を失わずに育ってほしいものです。
そんな子どもたちが、前回のコラムで紹介したように、大地と微生物と食べものの関係を体験したのですから、土に対する感覚は180度変わってしまうわけです。土の中でお腹を空かせていた菌ちゃんが元気になって、それはそれはたくさん増えました。今度はその菌ちゃんが、お礼にとっても元気でおいしい野菜を育ててくれるのです。菌ちゃんの力が野菜の根を通して、野菜の中に入っていくのです。これから育っていく野菜に心を寄り添わせて、子どもたちもいっしょに育っていきます。
しおれても頑張る姿に人と同じ“生きもの”を感じて
例えば、ポット苗を植える時、「ポットや土に手を当てるのはいいけれど、お野菜さんの茎は絶対に手でつかんではいけないよ。君だって、こうして首をつかんで動かされたら大変だよ」と言うと、子どもたちは本当に真剣そのもので植えてくれます。そして、野菜がかわいくて、1日2回、雨の日まで水をやろうとします。
「おいしくて元気なキュウリをたくさん着けてもらうにはね、まだ小さくて、キュウリの実ができていない今のうちに、もうちょっとだけ苦しさを乗り越えてもらわないといけないんだよ」「キュウリさんはね、水がなくて苦しいと、自分の力で水を探して、根を下に張っていくんだよ。いつまでも君が水をやると、ちょっと水がないとすぐにしおれてしまう、弱くておいしくないキュウリになるんだよ」 「君たちだって、今は小さい時だからちょっと苦しいことを我慢すると、どんどん強くなれるんだよ。駆けっこだって、ちょっと苦しくても我慢して走ると、足が強くなるだろう?」
すると子どもたちは、日中はしおれているが頑張っているキュウリをじっと見守ります。そして3~4日後には、昼間でもほとんどしおれないようになる様子を見て喜びます。
「このキュウリさん、自分の力で元気に生きていける体になったんだね」
子どもたちはキュウリを見守りながら、自分もキュウリも今を一生懸命生きている同じ“生きもの”であることが分かるんです。
このようなことを伝えるためにも、苗を定植したら少なくとも3日以上、水をやらないことをお勧めします。ただし、そうするためには次のような段取りが必要です。
- 畑に苗を植える前に、ポット苗ごと水に浸けておきます。
- 植えるときには、土を適度に湿らせ、強く踏んで植え穴をつくります。
- 苗を植えたら、すぐに水を流し入れます。地表面は敷き草で覆います。
こうすると、畑の土の中には水の毛細管連絡ができていて、土の下から水が上がってくるので水をやる必要がなくなるのです。苗は日中、しおれていても夕方には回復します。下手にかん水すると、根が水を求めて土の上層へと伸びます。そこは、温度変化や水分変化が激しいところですから、根の活着が遅れて野菜の生育が悪くなり、病害虫を呼び込む結果につながります。
ひたすら生きようとする“いのち”
たとえばトマトの場合。今年のトマトのタネを取って、新聞紙などに広げて乾かします。そのまま来年の4月まで園で保存して、種からまいてください。子どもたちは、登園すると真っ先に畑へ行って、芽が出ていないか観察します。そして発芽すると大喜びで、鼻を近づけて、「トマトのニオイがする!」と五感を使って土や野菜たちと交わるのです。
遊びに夢中になっていて、ニンジンの葉を踏んでしまった子がいました。折れたようになってしまいましたが、翌日には葉が元気に立っていました。ピーマンの苗を折ったときは、もうダメだとがっかりしましたが、数日後には新芽が出てきて、「まだ生きていた!」と感動しました。
朝、霜が降ってとても寒い日でした。子どもたちは登園して真っ先にホウレンソウを見に行ったのですが、葉は凍って地面に倒れてしまっていました。
「死んじゃったのかな?」
ところが、霜が解けた朝10時頃には、もうそのホウレンソウの葉が起きあがろうとしているではありませんか。「生きていた!」と感嘆の声を上げました。
「君は、家のお布団の中ではなく外で寝てしまって、凍ってしまったとして、また起きあがれると思う?」
「無理だよね。どうしてホウレンソウさんには出来たんだろう?」
「実はね、ホウレンソウさんは、葉の外側に霜が付いただけで、どんなに寒くても葉の中は凍ってはいなかったんだよ」
「葉っぱを少しちぎって食べてごらん」
「あまいね。どうして甘くなったんだろうね。人間に食べてもらうためかなあ?」
ここで、実験をしてみます。水を入れた2つのプラスチックコップを用意します。一方に砂糖を加えて、一緒に冷蔵庫に入れてください。数時間後、砂糖の入ったコップの水だけなかなか凍りません。
「そうか、だからホウレンソウさんは甘くなって、凍らないようにしたんだ」
「そうだね。死にたくなかったから、菌ちゃんとお日様の力からもらった大切な栄養を葉っぱの中に溶かし込んで、寒さなんてへっちゃらの体になっていたんだね」
「どうしてホウレンソウさんは死にたくなかったんだろうね。どうせ人間に食べられるんだから、そんなに頑張らないで、寒かったら死ねばいいと思わない?」
子どもたちにこんな意地悪な質問をする時もあります。
答えは次回のお楽しみ。