連載



山下一穂 土佐自然塾塾長・山下農園代表
第19回 有機農業ってなに?



僕のお野菜を購入している人たちのほとんどは、「有機農業って何?」って言う人たち。でも購入する。結構高いのに購入する。「なんだかよくわからないけれど、美味しければいいや」と言って買っている。多くの消費者は、有機農業か否かではなく、価格やクオリティと相談して、いろいろな条件から、様々な商品を選んでいる。そのうちの一つに、美しくて美味しい有機野菜があるのだろう。

では、有機農業って何なのでしょうか。有機農業推進法によると「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」とある。何となく体にも環境にもよさそうだけれど、でも、これだけではなんだかよくわかない。わからなけれど、なんとなくよさそうだな、と普通の消費者は考えている。

生産現場にも同様のことが言える。「化学肥料と農薬を使っていないから有機農業だ」と。じゃあそれだけで、美しくて、美味しい有機野菜ができるのか?当然否です。有機農業であろうとなかろうと、農産物であろうとなかろうと、太陽のエネルギーがたくさん詰まっているものは美味しくて美しい。例えば新鮮な魚介類は美味しい、旬であればなおさらだ。豊かな環境でのびのびと育った畜産物や、野生鳥獣も同様だ。元が美味しければ、料理しても加工しても、その手加減、さじ加減が上手であればさらに美味しくなるし、そこに作り手の愛が加われば、もう怖いもの知らずの美味しさになる。

「美味しい、優しい、気持ちいい」の、口鼻腔内から脳細胞に向けて、トリプルアクセル的、波状攻撃が始まる。

独特の風味と、舌に優しい食感のカブ
独特の風味と、舌に優しい食感のカブ

世の中はつくづく面白いものだな、と思うことの一つに、人々の意識と行動には大いにズレがある、と言うことがある。「環境に優しく、健康にも良い有機農産物は、多少高くても買う」と、アンケートに答える人たちは37%(日本有機農業研究会)ぐらいいるのに、実際にはそれほど売れていない。

有機農業の生産量は、農業全体の中では0.4%程度(農林水産省)だから、それが本当なら、有機農産物は売り切れて、足りなくて困っているはずなのに、売れなくて困っている有機農家もたくさんいる。健康食品(無添加の加工品など)も同様だ。消費行動の動機の多くは、利便性、低価格、メディアなどによる情報の刷り込みと、その影響を受けた人たちの意識にある。こういった人たちが圧倒的に多いのは事実だし、その意識が実際の消費行動にも表れている。

しかし、それとは逆に自分の感性と責任で商品を選ぶ人も少なからずいる。その感性に対する訴求力が高いのは、直接、五感に訴える、見た目と味覚。そんな人たちが実は37%ぐらいいて、先述したアンケート結果となっている。つまり、アンケートの項目と問いかけ方が間違っているのだ。

問いかける側に、有機農業か否か?という二者択一的で単純な問いが、意識と行動を分断している。「本当に、美味しくて、新鮮なものなら、多少高くても、買いますか?」と、まずは聞くべきなのですね。その次のステップとして「では、どのような商品や、農業が地球や、環境や、身体に優しいですか」が来れば、アンケート結果と実際の消費行動が合致しやすい。

それを実現する生産方式の一つが、高い技術力を伴った、小規模な有機農業ではあるけれど、当然それ以外の生産方式もあってしかるべき。多様なニーズと、多様な生産、流通体制がきめ細かくマッチングすれば、流通のロス(例えば膨大な量の廃棄食品など)が省け、経済の質はより向上する。ついでに言わせてもらえば、「景気」と言うキャッチ(お題目)に振り回されて、大きな資本が内輪同士で回って一人勝ちすれば、経済的格差はますます広がり、地方や一次産業は衰退するばかり。経済も食べ物も量より質が大切なのです。

寒さとともに、旨味をますコマツナ
寒さとともに、旨味をますコマツナ

話を戻しましょう。では、どうすれば、美味しくてきれいな作物が作れるのか。簡単です。太陽のエネルギーを濃密に循環させればよいのです。落葉樹の落ち葉や、雑草を始め、あらゆる有機物は太陽のエネルギーが物質化したもの。自然界ではそれが長いスパンで微生物や小動物など、多様な生命の関与を伴い循環している。だからと言って、すべてその時間軸に沿ってしまえば、農業にならない。だからその有機物を、人為的に土にすき込み、発酵、熟成させることで、自然の循環とその時間を短縮する。土の中の太陽のエネルギーが大きければ大きいほど、美しくてきれいな農産物が安定生産できる。勝手に生えてきたただ(無料)の有機物を、土の中に取り込み、それを農産物(有料)に変換させるのだから、こんな美味い話はない。他にも材料はある。食品残渣の生ごみ、漁業、林業、畜産廃棄物、などなど。もちろん営農であれば、適切な施肥方法や、それ以外の有機資材の投入や、耕種的防除や肥培管理はあるけれど、基本は同じことです。

EMなどで微生物の活性を高めれば、さらにその時間は短縮できる。作物として土から取り出したエネルギーは、作物以外の安価なエネルギーで補充し、土の生産力を維持する。これが持続性のある農業なのです。科学的に言えば、それは炭水化物であり、タンパク質であり、各種アミノ酸であり、ミネラルであったりするわけだけれど、そのあたりの細かい相互的な作用機序※とその理屈は、専門家や研究者に任せるとして、僕ら消費者と実際農家は、直感一発、ノリ一発で、太陽のエネルギーを、畑の中と外をぐるぐると循環させる。

そのイメージを、さらに環境全体に巡らせると、社会全体に活力がみなぎってくるのですね。

※ 薬剤が効果を発揮するための生化学的相互作用のこと



★★★ 畑丸ごと堆肥化のワンポイントアドバイス ★★★

黒ポリマルチを使った半血球レタス(美味タス)畑
黒ポリマルチを使った半血球レタス(美味タス)畑

土の力が「まだまだだね」と言う場合。
黒ポリマルチを使うと、できがワンランクアップします。黒ポリマルチの効果は、雑草抑制や、保温効果などですが、それ以外にも、一旦耕した土の、ふかふか度(空気の層)を長期間保ってくれて、根に優しい環境(呼吸しやすい)を作ってくれる効果もあります。

もう一つ、秋の晴天、乾燥が続く中、コマツナやミズナなど小さな種を播く場合。その発芽率を高める簡単な方法を伝授します。播種後、もみ殻を土が見え隠れするぐらいに(厚さ1cmほど)敷き詰め、不織布(商品名パオパオなど)で、べた掛けしておきます。これで晴天が3週間以上続いても、夜露ともみ殻と不織布の保湿効果で、発芽がそろいます。
ぜひ、お試しください。



(2016年1月8日)

やました・かずほ
1950年 高知県生まれ。28歳まで東京でドラマーとして活動。その後帰郷し、高知市内で学習塾を経営。体調を崩したためにあらゆる健康法を試してみたが、最終的に食と農の問題に行き着く。
1998年 本山町にて新規就農。2006年4月 高知県と地元NPO黒潮蘇生交流会(山下修理事長)との協働で「有機のがっこう土佐自然塾」設立し塾長に就任。8年間で100人を超える塾生が学ぶ。この経験をベースに有機農業参入促進協議会会長として新規就農者の拡大に東奔西走中。著書に「超かんたん無農薬有機農業(2010・南の風社)」、DVD「超かんたん無農薬有機農業 ムービー編Vol.1 これでどうじゃ」(2010・トランスウェーブ)、「無農薬野菜づくりの新鉄則(2012・学研パブリッシング)」。

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