連載

第4回 冬は楽しい季節、雪を楽しむ暮らし

自由自在に雪原を行く

1年のうちの半年が雪の季節の朱鞠内。
半端なく寒くて、雪も多くて、
「よくそんなところをわざわざ選んで住みますね、何が良くてそんなところに移住したのですか?」

そんな質問をよく受けます。私たちにとって、雪は待ち遠しい、楽しい世界です。もちろん、大変なこともあります。冬支度の前に大雪が降ったりしたら、ビニールハウスを潰してしまうし、作物も収穫前だったら損害も出てしまいます。
それでも雪は楽しい!

バックカントリスキーで樹氷の山を歩く

私たちの極上の楽しみの1つは、ふわふわの雪の上を滑るテレマークスキー。 夏には入り込めない笹薮の山の奥も、深い雪の世界になると雪がすべてを覆ってしまうので、テレマークスキーで容易に入って行けるのです。
テレマークスキーってなに?という方も多いでしょうか。アルペンスキーの靴で歩く時はかかとが上がるようになっている山岳登山用の山スキーがありますが、テレマークスキーは滑る時も歩く時もかかとが自由な状態で、かかとを固定せずに滑るスキーです。
アルペンスキーが両足を揃えて滑るのに比べ、テレマークスキーは左右の足を交互に前に出して歩くように滑って行きます。初めはうまく滑ることが難しいのですが、慣れてくるとアルペンスキーよりも未圧雪のバックカントリーでも滑りやすく、靴が歩きやすくできているので滑りも歩きも軽快に楽しめます。冬の北海道は除雪の行き届いた場所にしか行けないと思いがちですが、テレマークスキーがあれば雪原や雪山は広大なハイキングコースに変わります。

冬山や雪原に行くには、いざという時の食料や装備、知識、経験が絶対的に不可欠ですが、それなりの経験を積んでくれば、夏よりも行動範囲は格段に広がるのです。寒くて辛い冬が、毎日毎日降り続く雪が、この楽しみを経験すると待ち遠しくなるのです。雪が降ってくると、またあのふわふわのパウダーが待っている、とわくわくしてきます。気温が下がるほどに雪が軽くなって、楽しく滑ることができるのです。 広大な山々を見下ろすどこかの頂を自分の足で自由自在に歩き回り、滑り降りる爽快さは、経験した者にしか分からない極上の楽しみです。

とはいえ、私たちもそう度々山に出かけていけるわけではありません。真冬の朱鞠内では多い時には毎日のように40p程度の雪が降っています。10年位前からは、7月以降翌年の春のジャガイモの在庫が無くなるまで、小売店への出荷がほぼ毎日あります。そのため、集荷に来る輸送業者の車が我が家の倉庫に乗り付けられるように夫は除雪作業に追われ、それだけで半日潰れてしまいます。
積雪が2m50pを超えた今冬は、高さが4m以上ある倉庫も、積雪と屋根から落ちる雪で屋根まで歩いて登れる始末。そのまま屋根に上がって雪をどかします(除雪)。
雪にまみれて暮らしている、といった状態でしょう。新規就農当初は、機械がほとんど無かったため、5〜6棟あった建物の屋根の雪下ろしや除雪作業はすべて手作業でへとへとになっていましたが、現在はトラクターやユンボなどの重機もあり、随分楽に管理できるようになりました。要領もよくなり、ジェットヒーターで落とすところもあり、自分で落ちてくれるところもあり、どうしても手作業が必要なところもありますが、冬の運動不足解消に役立ってくれます。

移動手段としての犬ぞり

そして私たちが朱鞠内という場所を選んだ目的の1つが犬ぞりです。 私たち夫婦はアラスカで出会いました。その頃の夫は北米大陸の最高峰Mt.マッキンレーに登頂し、アラスカの北部に広がる広大な山岳地帯ブルックス山脈で3週間の狩猟キャンプを行った後、単身でアラスカネイティブの村に入って行きました。訓練がまだされていなかった犬ぞりチームをネイティブの方から借りて、1から犬たちを訓練し、冬の移動手段として使っていました。そりは手造りで、材料にする木も自分で原野から伐り出すのです。

私たちの生活のベースとして、そのアラスカでの経験を生かした狩猟採集の暮らしづくりというのがあります。当時移動手段の要として使っていた犬ぞりを日本でも暮らしに取り入れたいと思っていたので、朱鞠内の道路で分断されていない奥深い森は日本で唯一無二の魅力でした。自宅から犬をつなぎ、そのまま走らせることができる暮らしの背後に、険しすぎない広大な森があることが私たちの住みたい場所の第1条件でした。

真っ白な雪原を静かに、ほとんど音もなく進むことができる犬ぞり。バックカントリーを仲間の犬たちと力を合わせて移動していると、それぞれの犬たちと不思議と心が通じ合っていきます。時々犬たちに声をかけ、励ましたり、叱ったり。軽快にそりが進むこともあれば、操縦するマッシャーが一緒にそりを押さないと進めないこともしばしばあります。それでもスキーを使って自分の足で移動することに比べ、犬ぞりはさらに行動範囲が広がり、スピードも速く、自分一人が背負う荷物の量に比べ、使うそりの大きさにもよりますが、多くの荷物を運べるという利点もあり、暮らしの足としてとても有効な手段です。

そして極北に住む民は、この犬ぞりをとても重要視しています。現在では冬の移動手段としてスノーモービルが広く普及していて、日常的にはスノーモービルを使う人々も多いですが、厳しい気候条件で暮らすネイティブにとって、どんなに天気が荒れていてもスノーモービルのように壊れたりせずに、犬たちはちゃんと家に連れて帰ってきてくれるからです。
現在の我が家の犬ぞりチームは、実は中学生だった息子がリーダー犬を訓練し、チームとして作り上げたものです。夫がアラスカで使っていたチームと比べると、まだまだ訓練が足りず、弱小チームですが、それでも雪原を走らせ、何とかチームとしてつないできています。その息子も23歳ですから、かれこれ10年。我が家のチームができた当時の犬は残っておらず、2世代目になっています。息子は我が家を離れて数年が経ち、現在は我が家を訪れ共に時を過ごす若者たちが交代で走らせています。

狩猟採集のひとつ、フイッシュキャンプ

朱鞠内湖のアメマス、貴重な食糧!)
朱鞠内湖のアメマス、貴重な食糧!

朱鞠内の冬の暮らしの魅力の3つ目は、フイッシュキャンプです。我が家から朱鞠内湖までは、雪の季節になると夏には歩けないルートで行くので約4qの近道。スノーモービルや犬ぞり、そしてスキーと犬を組み合わせたドッグジョーリングで湖まで出かけ、氷に穴を開けてのアイスフイッシングを楽しみます。ワカサギやサクラマス、アメマス、幻の魚といわれるイトウなど、朱鞠内湖には様々な淡水魚が生息しています。 狩猟採集の暮らしに釣りは必修ですが、夏の繁忙期には釣り糸を垂れる時間的余裕はなかなか見つけられません。農閑期で春めいてきた3月、4月は貴重な釣りの季節なのです。

淡水魚でも刺身でとても美味しいサクラマスやアメマス。大半の人が生臭くて嫌がるウグイも我が家ではさばき方を工夫して、臭みのない美味しい刺身でいただいています。大量にワカサギが釣れるとマリネをつくって数か月食べられる保存食になります。もちろん、素揚げや天ぷらで揚げたてを思いっきり食べることも醍醐味。ワカサギ天丼は我が家の人気メニュー。

このフイッシュキャンプもアラスカネイティブから学んだことです。彼らのフイッシュキャンプは、生活に欠かせない大事な仕事です。自宅から離れた川岸に作業小屋を持って、夏場はそこで暮らしながら家族がその年に必要なキングサーモンやレッドサーモンの捕獲と燻製づくりの作業を行うのです。
私たちのフイッシュキャンプとは違いもいろいろとありますが、自然と共にあるための狩猟採集の暮らしの中の作業の1つなのです。

4月、もう日本中が春の陽気の中、朱鞠内はまだまだ雪の季節です。畑の土が顔を見せるのは平年だと5月中旬。半年間雪に覆われてきましたが、ああ、もうすぐ無くなってしまうのか、と今はとても名残惜しい気持ちでいます。

(2016年4月26日)




PROFILE
宮原 光恵(みやはら・みつえ)
昭和37年生まれ。
北海道川上郡標茶町出身。
学生時代写真部に所属。
写真スタジオのアシスタントを経てフリーランスに。
日本人女性唯一の大型野生動物の写真家としてアラスカの自然と野生動物をライフワークに取材を続けていた際、現在の夫と出会い、結婚。
冬季のアラスカネイティブ社会で生活した経験を持つ。
狩猟採集の生活をベースに自然と共に暮らす生き方の実践のため現在の朱鞠内に1997年新規就農。
現在耕作面積約60ha、そのうち約3haでEMを使った無農薬無化学肥料栽培で数十種類の野菜の栽培も行っている。
ホームページ:Mt.ピッシリ森の国(http://www.h3.dion.ne.jp/~pissiri/index.html
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