連載



第1回 始めるために知っておきたいあれこれ

朱鞠内の位置

北海道から新連載が加わります。
「Mt.ピッシリ森の国」便りです。
厳寒多雪な幌加内町朱鞠内に就農し、アラスカネイティブの生活体現を目指している宮原光恵さん夫妻は、「平成朱鞠内開拓塾」を設立し、農業を通して若者達に、命・人生を見つめ直す場所を提供しています。夫の克弘さんは探検家、光恵さんは日本人女性として唯一の大型野生動物の写真家です。アラスカで生活された体験から選択した「北海道・朱鞠内に暮らす」ということ。農業者としての経験を基に新規就農を目指す人へのアドバイスを主眼に、アラスカと北海道、広大な大地と厳しい気象条件の中で営まれる、人と自然と野生動物の世界、そして開拓塾とその先の展望を光恵さんにレポートしていただきます。

第1回 始めるために知っておきたいあれこれ

田舎暮らしにあこがれて、どうせなら農業ってどう・・・!?
家族の健康を真剣に考えて自給自足プラス農業は・・・?
有機農業に興味があって・・・。漠然とそんな思いを描いている皆さん、農業に真剣に就こうと考えている皆さんに、今回は農業の世界に足を踏み入れる前に知っておきたいさまざまな課題を、わたし達夫婦の経験を元にランダムに書き綴ってみようと思います。

わたし達は北海道での農業新規参入者ですので、どうしても北海道のことが中心になります。ご了承下さい。

農業といっても、実にさまざまな分野があります。動物を相手にするのか、植物を相手にするのか。それによって畜産と稲作、畑作。もっと細かく分けると牛、豚、鶏、羊など。さらに肉牛なのか乳牛なのか、繁殖なのか肥育なのか、卵なのか食肉用なのか。畑作なら大規模畑作なのか。野菜などの施設園芸、露地野菜、果実、花卉や高山植物をあつかう方もおられます。とにかく一口に農業といっても非常にたくさんの分野があって、自分たちはどんな物を生産したいのか、まずそのことを選択しないといけません。でも、その前に、新規農業参入者にとって一番大切なのは、どこで? です。暮らしの根を張る場所を決めること、そのことは何よりも大切なことです。

朱鞠内と新規就農

わたし達は北海道で新規就農して19年目。場所は雨竜郡幌加内町字朱鞠内。「しゅまりない」? もしかして、どこかで聞いたことはありませんか。多分、11月か12月のある日のニュースで、突然寒くなったとか大雪が降った場所として、きっと一度は聞いたことがあるはず。「日本最寒の地」として知る人ぞ知る朱鞠内。その他にも、「日本一の人造湖“朱鞠内湖”」「日本一の栽培面積を誇る“幌加内そば”」「日本一人口密度が低い」・・なんなら「日本一“地価が安い”」・・? とにかく、日本一ががたくさんの町です。

8月の幌加内一帯は、そばの花が咲き誇る
8月の幌加内一帯は、そばの花が咲き誇る

「僕はね、北海道でもさ、あそこだけは絶対に住みたくないって思っていたのが朱鞠内ですよ。そこにわざわざ好きこのんで新規就農なんかする人がいるんですか?!」。そう言われたのは、1997年に北海道の農業大学校で開催された新規就農者研修会の参加者からでした。その年の北海道内で新規就農したり研修中だったりしている若者50~60人が一週間本別町の農業大学校でさまざまな研修を受けたのです。ちょうど、北海道で新規就農者特別誘致条例が施行され、わたし達は最初の年度にその条例によってさまざまな助成を受けられた新規参入者にあたるのです。研修農家さんでの2年間の研修後、朱鞠内で農地を取得、農業を始めた最初の年にわたしはこの研修会に参加しました。夫は前年に参加していましたが、わたしにもどうか、と話しがあって、この年に勉強させていただく機会を得たのでした。

今から約20年前の北海道での新規就農はかなりの難関でした。概ね3000人程度の問い合わせや相談が北海道の窓口にあり、そのうち研修に入るのが約1割で、研修後農地取得できて就農できるのはそのうちの約7~8パーセント。その後5年以上経営を継続できているのは約半数といわれていました。ざっと、年10人程度というところでしょうか。

現在は、いろいろな補助制度ができ、助成や支援も整備され、もっとずっと新規参入しやすくなっています。私が参加した新規就農者の研修会で一緒だった方々のうち、何人もが現在も農業を続けており、しかも非常に質の高い農産物の生産を担っていることは大変嬉しいことです。制度が大きな力になってくれているのでしょう。

参入者の約3割が畑作

一口に新規就農といいますが、もともと農家の子弟で学校を出てすぐに研修に入り、農家を継ぐ新規学卒就農者や農家の子弟で他産業に就職してその後就農するのがUターン就農者、農家の子弟ではなく他産業からの就農者を新規参入者と呼びます。

「北海道」「農業」「新規就農」で検索すると、一番多いのが「畑作」で約3割。このうち、もともと農家出身の子弟をのぞく新規参入だけをみると、約半数が「野菜」で、2割が「酪農」です。ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、小麦、ビート、大豆、小豆など、大面積で輪作体系をとりながら栽培する大規模畑作は、それぞれの作物ごとに植える機械、管理作業機、収穫機械などが必要で初期投資が非常にかかります。すでに親御さんなどが一通りの機械や土地を持っていてすぐに農業が始められるUターン組に比べ、新規参入組は基本的に何も無い。だから、狭い面積で高収益がのぞめる「野菜」、特に施設園芸から入る人が圧倒的に多いのです。

大型機械を縦横に操るのも大規模農業ならではの醍醐味
大型機械を縦横に操るのも大規模農業ならではの醍醐味

さて、「北海道で農業を始めよう」と考えて、最初に思い浮かべるのは・・?
のんびりと草を食む白黒模様のホルスタインとともに、広い大地でのんびり農業をしたいなぁ~というイメージで北海道を夢見る人が約半数なんだそうです。新規参入組の約2割は酪農ですから、ある程度納得です。では、なぜ約半数が酪農希望者なのに、実際には2割なのでしょうか?それは、北海道での酪農は大面積で大規模経営になる場合が多いため初期投資が大きいことが主因と思われます。農業開始に数千万円の事業資金が必要となると二の足を踏む人が多くなるのはやむを得ないことに思われます。しかしながら、北海道の酪農は、そういった事情があるため農地取得や営農指導、資金調達にも他の経営形態より手厚い支援があることを知っておいていただきたい。だから、約2割もの人が巨額の投資が必要であっても夢の実現のために新規参入に踏み切るのだと思います。

次回は、わたし達夫婦がなぜ、あえて酷寒の地で畑作農業を選択したのか等をお話ししていきたいと思います。

(2015年9月24日)




PROFILE
宮原 光恵(みやはら・みつえ)
昭和37年生まれ。北海道川上郡標茶町出身。学生時代写真部に所属。写真スタジオのアシスタントを経てフリーランスに。日本人女性唯一の大型野生動物の写真家としてアラスカの自然と野生動物をライフワークに取材を続けていた際、現在の夫と出会い、結婚。冬季のアラスカネイティブ社会で生活した経験を持つ。
狩猟採集の生活をベースに自然と共に暮らす生き方の実践のため現在の朱鞠内に1997年新規就農。現在耕作面積約60ha、そのうち約3haでEMを使った無農薬無化学肥料栽培で数十種類の野菜の栽培も行っている。
ホームページ:Mt.ピッシリ森の国(http://www.h3.dion.ne.jp/~pissiri/index.html
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